保存と開発

保存と開発、これはこのブログのメインテーマの1つでもあります。
私の立場は明快、保存派です。それなりの生活環境を守るために経済活動が必要なのは理解しています。しかし一定の歯止めが必要だとも考えます。それが端的に現れているのが地球温暖化防止の一環として実施される、環境保全でしょう。言い換えれば、地球資源の食い延ばしでもあります。私の感覚では、この保全に建築物の保存と再利用も含まれます。地球全体では人口増にあるものの、日本は人口減に転換しています。この減った部分を補うため海外からの就業者を求めていますが、この人々のうち何パーセントが日本に定住するのか、定住したとして人口減を補い、さらに増に転じるのか?このバランスを住宅個数と人口で見た場合、これ以上の住宅は必要なのか?また旧来型の住宅は省エネ対策がとられていないものの、建物の解体と建設の持つ環境負荷の実態考えれば、解体せずに省エネ改修で対応すべきと考えます。これに景観保全は密接なかかわりを持ちます。

そこで今回のトピックは英国で起きた景観論争です。
スミスフィールドはロンドン市の北西部に位置し、その食肉市場の起源は800年前に遡ることが可能です。近代化によりロンドン市内の食品市場が姿を消す中、唯一ビクトリア時代に建設された食肉市場用ビルが残っています。2005年、ビクトリア時代の建築物のうちGeneral Market (1883年)Fish MarketおよびRed House(1898年)が、リース契約所有者のCity of London Corp(あのシティーといわれるロンドン中心部の自治体です)が再開発を計画し、Thornfied Properties社がこれらのビルを解体し、7階建てのオフィスビル(33,000平米)に立て直す計画を発表しました。

これに対しEnglish Heritageなどの保存団体が保存建物として登録されるよ働きかけをおこなってきたものの上手く行かず、2006年にCity of London Corpが計画の承認をおこなったことから保存は風前の灯になり、あとは公聴会の開催を求め、なんとか保存できるようにと関係者は懸命の努力をおこなっているという報道が2006年のインディペンデント紙にあります。

なかでも2006年11月のBBCにあるチャールズ皇太子がこの開発計画を評して「act of vandalism(野蛮行為)」とはっきり言ったのは目を引きます。ここまではっきりした発言を行う英国皇室に比べ、日本の皇室は周囲に対し配慮しすぎなのではと、ちょっと思います。

このインディペンデント紙によればEnglish Heritageは「当協会は多くの場合新規開発事業を支持してきたが、この計画提案は当該地域に似合わないものであり、地域のビジネスの多様性や活力を破壊する質の低い設計だ」とコメントしたとあります。
言い換えれば面積だけを増やす、ステレオタイプ的な開発計画であり、本当の意味での開発をもたらさないと言っています。

紆余曲折の結果、2007年11月に公聴会が開かれ、そしてこのたびHazel Blears コミュニティー・地方政府担当大臣がCity of London Corpの開発許可の承認を取り消したという報道がなされ(8月7日付けBBC)、建物の保存に向け前進しました。

一方で開発業者のThornfield Propertiesは、「この開発計画に5年以上もかけており、同地の開発許可取得を目指す」と述べています。

一方で建設業界誌のNCEを読んでみると、公聴会で主に討議されたのは景観保全というより、この建物の下を走っているビクトリア時代に建設された鉄道トンネルについてであり、開発業者側はトンネルの天井構造が老朽化しており、時間的制約から建物を取り壊す以外にトンネルの修理を行う方法が無いと主張。

これに対し公聴会でNetwork Rail(鉄道運営会社)の関係者は、このトンネルの頂頭部は同時代の他のトンネルと同様であり、現状で問題はないと考えると証言したとあります。

しかしBlears大臣は、「General Marketビル、そして東の鶏肉市場ビルや南の別館に繋がるキャノピーを解体することは、この地域全体の価値を落とすことになる」と保全を前面に打ち出したコメントをしています。公聴会は技術論争であっても最終的には景観、逆に言えば技術的に保存しても問題は起きないと言えたから保全できたとも解釈できます。

Thornfield Properties社は同大臣のコメントに配慮した計画へと変更を余儀なくされるのは、明らかです。また、このぐらい踏み込んだ発言でないと、守れるものも守れなくなるでしょう。

開発計画が公表されてから3年、英国でも建造物としての保存登録がないと守るのに苦労するのですね。でも3年かかかっても守れるし、守った。うらやましいなぁ。
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by fukimison | 2008-08-11 12:28 | つれづれ  

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